『鉄道手帳』をつくろう!

鉄道ファンのための手帳をつくれないか――こんな妄想を抱いたのは2007年の冬のこと。そろそろ来年の手帳を買おうと書店の手帳コーナーに行ってみると、『歴史手帳』『茶道手帳』『京都手帖』『天文手帳』といった趣味の手帳が並んでいました。ちょうどこの時、『鉄道の基礎知識』の企画を練っている最中でしたから[注1]、ピンと来ました。

「鉄道趣味に特化した手帳があったら面白いかも。鉄道関連の資料や蘊蓄が盛りだくさんで、毎日鉄道の世界に浸れるような手帳。まだどこからも出ていないはず」。じつに単純な発想でお恥ずかしいかぎりです。

正確にいうと、鉄道をテーマとした手帳は当時すでにありました。まったく同じ名前の『鉄道手帳』(オレンジページ発行)と『鉄道の旅手帖』(実業之日本社発行)の2冊です。ただし前者は乗車記録帳、後者は乗りつぶし手帳(画期的な手帳!)であり、スケジュールないしダイアリー機能をもった手帳ではありませんでした。やるなら今です。

結果からみて、これは悪くない思いつきだったと思います。ただし、こういう企画は思いついた時は楽しいのですが、実現まで漕ぎ着けるのが難しいものです。

日本の鉄道ファンは目が肥えていますから、中途半端なものはつくれません。かといって作り込みすぎると、一部の人にしか受け入れられなくなってしまいます。編集部単独で作れるようなものではありませんから、専門家の協力も必要です。

また各年版でつくる場合、おのずと販売期間が限られますし、資料を改訂するなどして新味を出し続けないとすぐに飽きられてしまうかもしれません。加えて弊社ではそれまで「鉄道本」を扱ったことがなく、私自身「手帳」を製作したこともありませんでしたから、経験もノウハウもまったくなく、企画立案の段階からかなりの時間を要しました。

幸いにして所澤秀樹氏が責任編集を引き受けてくださることになり、コンテンツのほうは何とか目処が立ちました。イメージづくりのための組見本も見よう見まねで何とかつくることができ(エクセルで作成)、参考資料もそろいました。

次のステップは企画会議ですが、その前に社内の根回し、もとい啓蒙も必要です。何しろ社内には鉄道ファンがまったくおらず(あとで1人いたことがわかりましたが)、鉄道本をつくりますと宣言しても反応はいまひとつ。

そこで、とりあえず鉄道趣味の面白さと可能性を知ってもらおうということで、「淡路町小鉄会」[注2]なるグループをひそかにつくり、コミック『鉄子の旅』を回覧したり、鉄道バーに誘ってみたりして、鉄道の認知度を高めることにしました。

やってみると意外に反応があり、「模型イベントがあるらしい」「こんな鉄道グッズがあったよ」という情報提供が続々。さらに「じつはムーンライト九州を乗り継いで鹿児島まで行ったことがある」「岩手まで各停で行った」という強者もいて、なかなか心強い。

これが功を奏したのかはわかりませんが、企画会議ではいろいろ質問が出ました。全然見込みがなければ、一蹴されるか沈黙の時間が長くなるかですから、悪くない兆候です。けれども手放しで絶賛というわけでもなく(そりゃそうです)、会議が終わった時はやや不安でした。

紆余曲折はありましたが、結局、社長が最も理解を示してくれ、「面白いやん。やってみたらええやん。ただし、3年は続けるように」と鳥井信治郎氏ばりの檄[注3]。ありがたいことです。この時の言葉は、その後の苦しい編集作業の支えになりました。



[注1]『鉄道の基礎知識』……最初はB6判300頁弱の本になるはずでしたが、ある事件をきっかけに著者・所澤氏が発奮したため、結局、A5判424頁(しかも2段組)という大著になってしまいました。2010年2月発行、本体価格2300円+税。

[注2]淡路町小鉄会……読み方は「あわじまちこてつかい」。「淡路町」は弊社本社ビル住所にちなんで、「小鉄会」は鉄道クラブを名乗るほど鉄道に詳しくないため、上方の落語家が師匠の名に「小」を付けるのにならいました。近年は休会中。

[注3]鳥井信治郎氏……サントリー創業者。2代目社長・佐治敬三氏がビール製造事業の開始を相談した時に答えた「やってみなはれ」の一言は、サントリーのチャレンジング・スピリットを象徴する言葉として有名。かつてビール大手3社に大きく後れをとっていた時代を知る者としては、近年のプレミアムモルツの好調ぶりをみると、胸が熱くなります。

★所澤秀樹著『鉄道の基礎知識』(創元社刊)

★「やってみなはれ」についてはコチラを参照(サントリーホールディングス株式会社HP)
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