路線図の編集――原図は畳1枚分以上

今日は『鉄道手帳』を名乗るうえで欠かせない構成要素である「全国鉄軌道路線図」について、その製作経緯と特徴をご紹介したいと思います。長くなってしまいましたので、お時間のある時にどうぞ。

所澤氏との打ち合わせの際、「路線図はこの手帳の肝であるから、相当に工夫を凝らさねばならない。これまでにない、徹底的にこだわった路線図をつくろう」ということで意見が一致しました。まず、JR線だけでなく大手私鉄、地方私鉄、地下鉄、路面電車などの駅、停留場すべてを掲載することを目標にしました。手帳サイズで全路線全駅(停留場)を網羅しようなどとは大それた考えでしたが、鉄道手帳を名乗る以上、それぐらいはせねばならないと考えていました[注1]

それから、鉄軌道会社ごとに路線を塗り分けるというアイデアが所澤氏から出ました。路線の塗り分け自体は、時刻表などの路線図でも部分的に使われている手法ですが、それをもっと徹底的に進めようというのです。ご覧のとおり、JR路線にはそれぞれコーポレートカラーを、私鉄や公営鉄道などについてもそれぞれ独自に路線色を割り当てましたので、各社の路線の広がりや重なりがひと目でわかる、カラフルな路線図になりました。これは本手帳ならではの特徴だと思います[注2]

おおよその仕様が決まったら、次は原図作成です。でも、こんな大きな路線図は作ったことがありませんから、どこから手をつければいいのかわかりません。どうしたものかと所澤氏に相談してみると、「じゃ、私がつくるよ。中途半端な原図が出来上がってくると、かえって修正に手間がかかるし、私なりにこだわりたいところもあるから。その代わり、チェックは念入りにお願いしますよ」とありがたいお言葉。ちょっと迷うところもありましたが、結局、原図作成は所澤氏に丸投げしました。

原図作成にどれくらいの時間がかかったのか、よく覚えていませんが、氏が原図を持参してこられた時のことは忘れられません。所澤氏が描き上げた原図は継ぎ接ぎだらけで、ゆうに畳1枚分はあるとんでもなく巨大な代物で、氏がそれを広げていく間、私は呆気にとられていました。最初はあまりの大きさに驚くばかりでしたが、よく見ると路線はほとんど迷いのない線で丁寧に描かれていて、駅名も几帳面な字で書かれています。

当初予定にはなかった工夫も随所に施されており、信号場・操車場に加えて貨物専用駅、JR各社の会社境界[注3]なども書き込まれていました。線種の指定や凡例、路線図中の注釈[注4]もじつに細かく、想像以上の路線図に仕上がっていました。その完成度はきわめて高く、私は氏の才能と集中力に恐怖さえ感じるほどでした[注5]。と同時に、果たして、こんな巨大な路線図が手帳サイズに収まるのか、やや不安になってきました。

ともあれ、この巨大な原図を一通りチェックし、トレスの作成を外部に発注しました。あの巨大な路線図がB6サイズに収まるのか半信半疑でしたが、字は限りなく小さいものの[注6]、指定のページ割どおり見事に収まっています。この路線図製作の栄誉は編集工房ZAPPAの河本氏[注7]にありますが、校正も相当骨が折れました。なにせ原図が大きいので、路線を追うだけでも大変です(コピーも大変)。

前述のように、所澤原図には駅・停留場はもちろんのこと、信号場や操車場、もろもろの注釈まで書き込まれていましたから、尋常の路線図ではありません。停車場・停留場名だけで軽く9000以上あるわけです。路線の名称・色・形、停車場・停留場の名称・位置、海岸線の形……と確認すべき箇所は数知れず、寝ていても脳裏に浮かびそうなほど、校正をくり返さねばなりませんでした(それでも間違いがありました。申し訳ありません)。

この作業はいつになったら終わるのだろうか、発売予定の「鉄道の日」に間に合うのだろうか。果てしない作業に絶望感が漂います。でも、やるしかありません。


[注1]全路線全駅を網羅……ただし、専用鉄道・専用側線〈専用線〉や非営業の車庫線などは実態把握が困難なため掲載していません。何度かご要望がありましたが、曖昧な情報は掲載しない方針ですので、ご了解願います。

[注2]カラフルな路線図……路線図で気に入っている点はたくさんありますが、個人的にとくに良いと思うのは東京地下鉄・都営地下鉄路線図です。所澤原図でまず目に付いたのは、メトロと都営の線種がまったく異なること。メトロはラインカラーで色分けしているだけですが、都営のほうはラインカラーに白丸を入れた線を採用しているので、ひと目でメトロと都営の路線の重なりがわかります。路線の重なりにもこだわっています。地下鉄路線が複数ある場合は、一般に新しいものほど地下深くに建設されますが、本手帳の路線図ではここも忠実に再現しています。駅の連絡にもこだわっていて、大手町駅などの駅アイコンは実状をふまえて複雑な形にしています(写真は2013年版)。
文書名 _鉄道手帳2013年版最終DATA1


[注3]JR各社の会社境界……2009年版では会社境界を入れただけですが、その後、支社境界と支社アイコンも導入しました(いずれもJR貨物を含む)。支社アイコンは、色付き丸に白抜き文字仕様とし、昔の路線図(とういか旅行図)の趣を出してみました。これを入れることで情報量が増すだけでなく、路線図全体が引き締まったのではないかと思います。

[注4]路線図中の注……たとえば、JR東海の飯田線・平井信号場付近にはこんな注釈があります。「豊橋~平井(信)間はJR東海・名古屋鉄道の線路共有区間(線路の所有者は下り線がJR東海、上り線が名古屋鉄道)」。加えて、平井信号場そのものには引き出し線を付して「小坂井駅構内扱い」としています。「読めば読むほど味が出る路線図」というと言い過ぎでしょうか。

[注5]所澤氏手書きの原図……本当に緻密で、デフォルメはされているものの、可能なかぎり現実の地形や線形が再現されていました。こういう路線図はどうやって描き上げるのか聞いたところ、「『鉄道要覧』や通常の地図を参考にしている」とのこと。ただし、「実際に路線に乗った記憶があるので、だいたいは覚えている。地図はおもに確認に使う。線を引いていると、沿線の風景が浮かび上がってくる」とも。たしかに、いちいち地図を見ながら描いていたのでは、時間がかかって埒があかないでしょう。そもそも、たんに路線を描くならともかく、駅名をも書き込んでいくには巨大な紙面が必要であり、そうなると地図をなぞるなどの手法は使えません。路線や駅の位置関係なども重要ですから、「路線図が頭にたたき込まれている」ぐらいでないと、こんな巨大な路線図は描き上げることができなかったでしょう。

[注6]字が小さい……「駅名を大きくして欲しい」というご要望をいただきます。たしかに小さく、矯正視力1.2の私でも読むのに苦労します(ちなみに校正のときは、1ページをA3サイズに拡大しています)。ただ、手帳サイズに全路線全駅(停車場)を載せるとなると、文字は小さくせざるをえません。ページ数を増やしたら、というご提案もいただきますが、路線図の横幅そのものはページを増やすことができるものの、天地(タテ)のサイズは変更できませんからいびつな路線図になってしまいます(現行でもかなりデフォルメしていますが)。ただ、需要があれば、本手帳の大判や路線図のみを発行したいとは思います。

[注7]編集工房ZAPPAの河本氏……とても頼りになる巨漢の地図製作者(本文組版もやってくれます)。『鉄道の基礎知識』『国鉄の基礎知識』でもお世話になっています。ZAPPAという屋号は、故中島らも氏がアメリカのミュージシャン、フランク・ザッパからとって命名したとか。
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